劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘』感想・観劇レポ一覧

野中万寿夫フロローの静かな狂気に恐怖し優しさに涙した観劇レポ:2017年1月7日(土)の感想

野中万寿夫フロローは嫌味のない実直で敬虔な聖職者だった!暴走っぷりが冷静冷酷で恐ろく、震えた。優しさに和らぎ涙した

まず始めに書いてしまうとコレです。野中万寿夫フロローと芝清道フロローとの大きな違いはココ。

芝フロローはどちらかといえばものすごく嫌味な男で、権力を大いにふりかざすし欲望(いわゆるエロ心)は隠しきれておらず下心丸見えでめちゃくちゃ気持ち悪いし、人間クサイ部分がかなり見えてしまっているのです。※これはもちろん褒めています

野中万寿夫フロローはその逆で、嫌味な部分は弱め。真面目で実直、敬虔な聖職者そのもの。欲望の部分はなんとか押さえようとして苦しんで苦しんで苦しみぬく。葛藤の部分がとても強く感じましたし、だからゆえに暴走ぶりがとても恐ろしく狂気に感じました

そして大きく感じたのは「優しさ」です。優しい聖職者であり、カジモドの父(本当は叔父)でもあります。「時々息子のように思う」というのも嘘ではないでしょう。

そうきたか。と思いました。観劇中、カジモドをかわいがる野中フロローの優しさを感じて自然と涙がでました。

フロローはカジモドを20年間もノートルダム大聖堂の鐘撞き塔に閉じ込めて外界から隔離してきたのですが、それはもちろんハンチバックなカジモドを差別や迫害から匿うということでもあるし、ある意味自分都合な洗脳もしやすい環境だったともいえます。

ところがエスメラルダが登場し状況は一変します。

フロローは、エスメラルダがカジモドに何かを吹き込むことを極端に嫌がります。エスメラルダは「考え方を教えるぐらいいいじゃない」と言うのです。しかし、それでは都合が悪いんですね。

芝フロローの場合は、エスメラルダにエロい誘いを見抜かれて断られたことへのあてつけのように、その後カジモドを虐待していました。(カジモドはとばっちり)

でも野中フロローは違っていて、本当にそんないやらしい意味ではなくエスメラルダを誘った(大聖堂に住むように言った)のに、「いやらしい目で見ている」と言われ断られたことでプライドを傷つけられ激昂したように見えました。

「私と一緒に住もう」といったのがマズかったのだと思うけど。

ここが野中フロローのスイッチが入った瞬間(暴走へのキッカケ)だなと思いました。エスメラルダをも保護しようとしたのです。ちょっとエロい念は入ったけど。まだ優しさがあった。

野中フロローのその後のカジモドへの体罰は、カジモドを「私達を誘惑する悪魔(=エスメラルダ)」から、本心で守ろうとしているように見えたし、エスメラルダに怯えているようにも見えました。あ、この人は本気で息子(本当は甥だけど)を守ろうとしているな、と。

こんなにまで女性に心を揺さぶられたことはいままでかつてなかったのでしょう。

いや、一度ありましたね。ジェアンが連れてきたフロリカです。あのシーンは短いですがフロローにとっては初めて女性に誘惑された大きな出来事でした。体の変化までからかわれた。

フロリカもジプシー女でしたから、エスメラルダを性的に警戒するのは当然なのです。

まぁ結果的に自らの欲情の念が強くなりすぎるのですが。

芝フロローの場合は同じ台詞を言うけどそれは詭弁であり、自分自身の欲望をエスメラルダに見抜かれた気まずさや気恥ずかしさから大声でエスメラルダを追い出し、カジモドにはそれを察知されぬように無理くりに体罰を与えているように感じたのです。

はい、この1シーンだけでも、全く違います。非常に面白いですね。

これはキャストの演じ方もそうですし解釈の仕方もそうですし、もちろん見ている者(=この感想を書いている私)の感じ方の違いもそうでしょう。

先日「ヒルナンデス!」でカジモド役の海宝直人さんが「今回は演じ方や解釈については演者にある程度任せられている」と話していました。カジモドの海宝直人さん・飯田達郎さんでも演じ方は全然違ってきます。個性が強く出ます。

なので、フロロー役のお二人がここまで違ってくるのは当然なんですね。ただのコピーではない、全く別味のダブルキャストを楽しむことができるのがこの『ノートルダムの鐘』なのです。

ほんまにめちゃくちゃエエ作品ですよ。コレやばいヤツよ。

オープニングの冒頭、「人々は震え上がった」と説明するコロス(語り部)。

「震え上がった」のはフロローの説教を聞く人々のことですが、「兄弟のみなさん、我々は…」と語りだす野中フロローの口調は震え上がるどころか、和らぎを感じるかのように耳ざわりがよく、優しい声なのです。

その滑らかな台詞の出だしにまず驚きました。

そうか、野中さんの演じるフロローはこんな声なんだ。ヤクザともちがう、スカーとも違う、これまでに聞いたことがない(ドスの効いていない)綺麗な柔らかい声です。

ああ、こんな大助祭が目の前にあらわれたら、この人の説教どおりにちゃんと言うこと聞いて、今日は年に一度の大きなお祭りだけどちゃんと自制しなきゃな…と思うほど。

芝フロローは「兄弟のみなさん!」からかなり高慢で威圧的です。聖職者でありながら人々を見下しています

野中フロローは声には威圧感は感じません。もし震え上がるとしたらその風格でしょう。長身で体格もよい野中万寿夫さんは、聖職者らしからぬ強さや男らしさ、そしてたくましさを感じます。

ジェアン(男性7枠)とクロード(フロロー)の「なかよし兄弟」の回想シーンでは声色を高く変え、張りのある若々しい声で歌い台詞を喋る野中フロロー。

「クロードは優しい兄さん~♪」もいいです。ほんまに優しい。弟(ジェアン)との会話もめっちゃ優しい。

ジェアン役は今回も佐藤圭一さん。佐藤さんのジェアンは熱くて好きです。フロリカの事をデュパン神父に見つかりそうになり、クロードが告げ口しないように、ニヤニヤしながら一生懸命に兄の肩をモミモミするところも含めて好きです。

結局ジェアンの肩もみの甲斐もなくクロードがフロリカを差し出して神父様は激怒。「でてゆけ!ジェアン!」の声がめっちゃ強く、やたらエエ渋声の平良交一デュパン神父様

ここの圧倒的な声にはいつも震え上がります。「破門にするしか・・・ないっ!」で、ジェアンを指していた指を、下にサッと振り下ろす仕草がカッコよくてたまりません。ヒー。

ジェアンはフロリカと出てゆき、フロローは後ろ髪をひかれつつもどんどん出世していきます。

フロリカ役(女性1枠)は今回お初の平木萌子さん。前回の小川晃世さんもそうですが、ジェアンが「美しいフロリカと旅をしていた」という説明には納得の美人。フロリカの場合は黒の髪色。以降は金髪に近い色に変わります。(鬘チェンジ)

数年後、ジェアンからの手紙を受け取った野中フロローは、「ジェアン…!」と静かに呟く感じでした。(芝フロローは割と大きめな声で驚くように「ジェアン?!」)

その後ジェアンと再会したクロード。赤ん坊(カジモド)を手渡された野中フロローは、チラと赤ん坊を見る程度で即「怪物だ!」と言っていました。あまりしっかりと見ない感じ。

その時に、フロロー兄弟のやり取りを、冷たい目つきで睨むように見つめるアンサンブル。これは何か意味があるのでしょうか。ちょっと気になっていますここ。

「俺の子だ!」兄に赤ん坊を託し、カラダを震わせながら死んでゆく佐藤ジェアン。うん、アツい。

野中フロローは慌てて十字を切っていました。弟への愛情と優しさをにじませていた分、弟が死んでしまった罪の意識を大きく感じているし、とても焦っているようにも。このあたりの表情演技はさすがです。

アンサンブル「できそこないという意味のその名は!」フロロー「カジモド!」という流れの部分は、野中フロローはやはり「カジモドっ」と、名付けるように短く言い切っていました。芝フロローは「カジモドォー」と不気味な感じです。

さらに言うとカジモドへの「上へ行け!」も優しかった。

時は経ちカジモドは大人に成長。ガーゴイルと空想の会話中にフロローが鐘撞き塔に入ってきます。

先程の青年時代とは変わって落ち着いた低めの大人の声に。「おはようカジモド」がやたらエエ声で、そしてやはり優しい。全然高圧的じゃない、カジモドにも優しい野中フロロー。

「キリストの御血、御体」らへんは、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな祈りのような声で。

そして歌に入ります。「サンクチュアリ」から独特の揺らし歌唱が出ていました。野中万寿夫さんはこの歌い方がクセになります。

いってしまえばやや演歌風ですが、決してそれが悪いというわけではありません。とても魅力的です。ここまで独特だと後から尾をひき、聴く者はクセになってしまう歌い方です。

野中フロローのその歌の揺らしに応えるように何度も頭をペコペコと下げ、フロローの手を取りキスをする海宝カジモドがいじらしくて、早くも泣けてきます。

トプシー・ターヴィー事件後の「サンクチュアリ・リプライズ」では、さらに激しく、ねちっこくゆらして歌う野中フロロー。「せい~いき~♪」や「そこに~いろ~♪」の辺りが特に独特です。

またもやいじらしくフロローの言うことを聞くように、ヘコヘコする海宝カジモド。うう…

「道化の祭り」でカジモドが民衆に襲われている間、わざとすぐには助けなかったフロロー。

芝フロローは「言いつけを守らなかったカジモドをこらしめるため」のように思えましたが、野中フロローの場合は本当に「カジモドに言い聞かせるため、冷たい世間の現実をわからせるため」に、あえて辛い選択を選んだようにも。

そして例のエスメラルダのスカーフにおい嗅ぎは、芝フロのように「スウゥーッ」と思いっきり嗅ぐのではなく、野中フロローは「スッ」と短めでした。ほぉ。

芝フロは堪能型、野中フロは確認型でしょうか。

そしてビッグ・ナンバーの「ヘル・ファイアー」。

芝フロローの大聖堂を切り刻むかのような強烈な早い揺らしに対し、野中フロローはまるで地の底から蠢くようなゆったりとした揺らしでナンバーを最高潮に盛り上げます

野中フロローのヘル・ファイアーも超迫力でググッと息を呑みました

このナンバーでスタンディング・オベーションしそうになったほどです!めっちゃ凄かった、ブラボー!

2幕バスティーユの独房。エスメラルダと二人きりのフロロー

芝フロローは最初からエスメラルダを襲う気満々だし、いやらしい目つきでめちゃくちゃ気持ち悪いのですが、野中フロローはそうではなくエスメラルダと口論になる内に興奮して襲ってしまうような感じに。

「怪物?いや違う、私は人間なんだ!」という主張は、野中フロローは本心から言っているよう。もちろんエスメラルダは拒絶。

ここら辺りの演技の攻防(野中万寿夫フロローと岡村美南エスメラルダの演技のせめぎあい)は強烈なインパクトがあり、どちらも迫真の演技です。思わず手に汗を握ります。

そしてエスメラルダの火刑シーン。

フロローの最後の問いかけにも「NO」の態度を示すエスメラルダは、フロローの顔にツバをはきかけます。

芝フロローはツバをはきかけられたらすぐに手で顔を拭くのですが、野中フロローはすぐには拭かず、そのまま前進してエスメラルダから離れてから、やっと手で顔を拭いていました。

今回は岡村エスメラルダがフロローに火を付けられる直前に「フロロー!」と言っていたのが印象的でした。

フィナーレ、一連の騒動の後の鐘撞き塔(ラストシーン)。

野中フロローの「死んだのか」の冷静な言い方にはゾッとするものを感じました。「やっと魔女が死んで~♪」の歌い方も。死んでの「ん」の半音上げがやたら不気味に感じます。

だがその行いを後悔しているようにも。ブツブツと小声で祈りを唱えているようでした。自分を正当化するべく神に祈っているのでしょうか。

しかし、その後のうろたえ方や狼狽っぷりが見事でした。

そして壮絶な○○、○○○・・・

あ…あぁ…なんじゃこりゃ!

いやぁ…良かったです。一体なんなんですか、このフロローは!

毎回作品のパワーに圧倒されるわけですが、もう、こんなの見せられたらグッタリですよ。

芝さんのドエロフロローも好きだけど、野中さんの真面目からのプッツンフロロー…めっちゃ良かったよぉ悲しかったよぉ怖かったよぉ…

そして優しかった、最後まで

カジモドとやり直そうとしていたもん、最後ね。カジモドはもう怒り狂ってフロローの洗脳にはかかりませんでしたが。

ラストで「カジモドと関係修復を図ろうとした」ことについては、より父性の強い野中フロローの演じ方がスッと落ちたし、私は妙に納得しました。

いやこれしかし、野中さんのフロローを見た後にまた芝さんのフロローが見たくなりますね。

いや本当に全然違いましたもん!はっ、だから頻繁に交互出演にしているのかしら?もうノートルダムのチケットはないというのにグヌヌ。

そしてまだ見たことがない宮田愛エスメラルダと野中万寿夫フロローとの台詞の応酬は、一体どんなふうになるのかも見たいです。

宮田エスメはかなり強気に話すそうですから、また感じ方が変わってくるでしょうね。

 

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